アパート経営を始める際、大家自身が物件の一室に住むという選択肢もあります。
貸付用の物件に住むことには、管理面などの利点がある一方で、生活面や税務面で注意すべき点も存在します。
本記事では、住みながらアパートを経営する場合のメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。

大家が賃貸物件に住むことで得られるメリット

アパート経営において、大家自身が物件に住むことで得られる利点は、管理面や入居者対応など多岐にわたります。

管理・トラブル対応が迅速になる

大家が賃貸物件に住んでいる場合、設備の不具合や騒音などのトラブルが発生しても、即座に対応できます。
外部の管理会社を介さずに直接対応できるため、入居者の満足度向上につながります。
また、直接管理することで委託運営コストを削減できるため、経営効率の面でもメリットがあります。

物件の状態を常に把握できる

物件に住んでいることで、建物の劣化や設備の不具合などを日常的に観察でき、早期の修繕や改善につなげることが可能です。
外部からの報告を待つ必要がないため、対応のスピードと精度が向上し、結果として物件の資産価値や魅力を維持しやすくなります。
さらに、入居者の生活状況や共用部分の使われ方なども把握しやすく、経営判断に役立つ情報を得やすいのも利点です。

住宅ローンが利用できる場合がある

貸付併用住宅であっても、居住用スペースが建物全体の50％以上を占めていれば、住宅ローンによる融資を受けられる可能性があります。
住宅ローンは、自宅として利用する物件に対して提供されるもので、一般的にアパートローンよりも金利が低く、返済期間も長く設定できる傾向があります。
そのため、返済負担の軽減につながる点は大きなメリットです。
また、一定の条件を満たすことで住宅ローン控除の対象となり、所得税の負担を抑えることも可能です。
一方で、建物全体を貸付用として利用している場合は対象外となるため、大家として住むことを検討している場合は、融資の選択肢も含めて計画的に判断することが重要です。

大家が経営アパートに住むデメリット

住みながらアパート経営を行う場合、生活面や税務面におけるデメリットも事前に理解しておく必要があります。

プライバシーの確保が難しくなる場合がある

貸付用の物件に居住する場合、入居者との距離が近くなることで、互いのプライバシーが損なわれる可能性があります。
特に共用部分で頻繁に顔を合わせる環境では、生活の気配が過度に伝わり、入居者が気を遣う場面も生じやすくなります。
大家側も、生活空間に業務的な緊張感が入り込むことで、居住の快適さが損なわれることがあります。
そのため、自宅として利用する部屋の配置を工夫するなど、物理的な距離感を調整する配慮が求められます。

事業経費の区分ルールと税務上の注意点

貸付用アパートに大家自身が住む場合、生活費と事業経費が混在します。
不動産所得の計算で経費として認められるのは、支出項目のうち事業に該当する部分に限られます。
たとえば、電気代や水道代を事業用として処理するには、使用時間や面積などの合理的な基準に基づいて按分する必要があります。
住居と事業の場が同一建物内にある場合、税務上の「事業用」と「居住用」の区分が曖昧になりやすいです。
そのため、共用設備の修繕費や光熱費などについても、どの程度事業に関係しているかを明確にすることが求められます。

按分計算の根拠と記録の重要性

賃貸併用住宅において、事業用部分の経費を算出するには、合理的な方法で按分する必要があります。
按分方法は、経費の種類によって異なります。
たとえば、固定資産税や火災保険などは、建物の部屋数や面積を基準に按分し、事業に対応する部分のみを経費として計上しなければなりません。
税務調査の対象となった際には、按分方法や計算の根拠となる資料の提示が求められるため、日常的な記録と合理的な説明が不可欠です。
按分の根拠が不十分な場合、経費が否認される可能性もあるため、説明可能な形で処理しておくことが望ましいです。

住みながらアパート経営する際の事前準備と確認ポイント

大家自身が物件に住むスタイルを選択する場合は、物件の構造や間取りが居住と賃貸の両立に適しているかを検討する必要があります。
共用部分の配置や大家が住む場所など、入居者との距離感に配慮した設計が求められます。
また、住宅ローンの利用可否や税務処理の方針についても、金融機関や税理士と事前に相談しておくことが重要です。
管理業務を自ら行う場合は、対応体制や緊急時の連絡手段なども整備しておくと安心です。
こうした準備を通じて、入居者との良好な関係を保ちながら、安定した賃貸経営を実現することが可能になります。

まとめ

大家自身が物件に住むというスタイルは、管理効率や入居者対応の面で多くのメリットがあります。
一方で、税務処理や生活との境界管理には、慎重な対応が求められます。
特に、経費の按分や事業用割合の設定については、税務署からの指摘を避けるためにも、根拠のある処理が不可欠です。
こうした判断に不安がある場合は、早めに税理士へ相談することが有効です。
専門家の助言を取り入れることで、節税効果を最大限に活かしながら、安心して事業を継続できる体制を整えることができます。